「今日のこと、べつにルクマに隠す必要はないからね」
すっかり暗くなった周囲に半ば溶け込みながら、メリエムは瞳を閉じて笑った。
「もっとも、私から言うつもりだけどね」
ルクマの怒る顔が目に浮かぶわ、と言いながら、顔はとても楽しそうだ。
その笑顔を、美鶴は辟易と見つめる。
「結局、こちらの話ばかりだったわね」
その通りです。
別段、聞きたいとも思っていなかった話を聞かされ、だが聞かされると気になってしょうがない内容。苛立ちも感じる。
私には関係ないじゃないっ
その怒りは、目の前にはいない混血の少年へ――――
「遅くなってしまったわね。家はこの近くだったのよね? 送っていきましょうか?」
「いえ……… 大丈夫です」
時刻はまだ19時前だろう。暗いのは、雲行きが怪しいからだ。
だが結局、降らなかった。
女が女に送られるというのも、妙な話だ。この女性、ずいぶんと美鶴を子供扱いしている。
実際、美鶴や瑠駆真よりも年上だろう。話し方や、その内容を聞く限り、少なくとも自分よりは大人だ。
話し方………
随分と日本語の上手い女性だ。外国人特有の訛りはあるが、それでも日常生活で困ることはないだろう。美鶴でも知らない慣用句なども、かなり使いこなしている。
だが、それがなぜなのかを聞くタイミングには、恵まれなかった。
日本語が話せるから拾われた―― と言っていたな。いつか、瑠駆真にでも聞いてみようか?
―――――っ!
慌てて否定する。
瑠駆真の知り合いがなぜ日本語を流暢に話すのかなど、自分には関係のないことだ。
必死に頭の外へと追い出し、メリエムと別れて帰路につこうと顔をあげた時だった。
「ようっ!」
少し気まずそうな声に、しばし絶句。
「……… 聡」
美鶴の声に曖昧な笑みを向け、ゆっくりと近づいてくる。そうして、視線を美鶴の背後へと投げた。
「今のってさ………」
少し責めるような、訝しるような声。
「瑠駆真の知り合いだろ?」
「あ…… うん」
「じゃあさぁ」
そこで一度言葉を切り、視線を落す。
「瑠駆真も…… 一緒だったのか?」
落ち着かない聡の態度の意味を理解し、嘆息する。
「一緒じゃないよ」
「ふーん」
だが聡は、どうも納得がいかない。
「お前も…… 知り合いなのか?」
「話したのは今日が初めて」
だが、メリエムと言う彼女の名前を聡に教えたのは、美鶴だ。
「初めてにしては、ヤケに仲良さそうだったな」
「そう?」
冷たい言葉に、聡は顔をあげた。
「瑠駆真とさ……… 毎日会ってんのか?」
そう言って、自嘲する。
「会ってるよな。今までだって、毎日駅舎に顔出してたんだし……」
「まぁ……… ね」
「二人でさぁ…… 何話してんだ?」
「何って………」
別に大したことは話していない。
聡と比べると、瑠駆真は口数も多いほうではないし、かと言って美鶴から話かけることはない。何をしているのかと言えば………
英語を教えてくれと、何度か言われた。
その度にあれこれと理由をつけて拒否するが、簡単に引き下がる瑠駆真でもない。
言い訳を考える時間も無駄に思えて、結局適当に付き合っている。
「別に何も……」
しばらくの後にそう答える美鶴。聡は一歩踏み出す。
「何も?」
「………… 何が聞きたいの?」
不愉快そうな美鶴の語気に、ハッと言葉を失う。
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